WBC2023日本代表に寄せて

体の奥底から熱いものがこみあげてきたのは、フルカウントから投じられたスライダーがマイクトラウトのバットをすり抜けた瞬間でも、激闘を戦い抜いた男たちが抱き合う時間でも、英雄たちが胴上げでマイアミの宙を舞ったタイミングでもなく、世界中の興奮が…

文学フリマ東京35を経て

口ロロに『マンパワー』という作品がある。高校生の時に聴いていたこのアルバムが、なぜか昨日今日の自分の脳裏によく響く。2013年、震災が後姿を見せ、東京スカイツリーが開業したあの頃の雰囲気がまるごと詰まった音楽だと思う。そのような時代性の帯電に…

『silent』と草野正宗の言葉

前書き(よまなくてもいいです) 歳をとるごとに涙腺が緩んでいくと聞いてはいたものの実際に自分が二十代も後半に差し掛かり思うのは自身の涙の価値がだんだんと下がっているということにある。いやそもそもの話てめえの汚い涙になんて誰も興味ないぜアホンダ…

第167回芥川龍之介賞 受賞作予想

第167回芥川龍之介賞の候補作は、以下の5作です。小砂川チト「家庭用安心坑夫」(群像6月号)鈴木涼美「ギフテッド」(文學界6月号)高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」(群像1月号)年森瑛「N/A」(文學界5月号)山下紘加「あくてえ」(文藝夏…

湯浅政明『犬王』

『犬王』を見てきた。最高だった。勢いで、人生捨てたもんじゃないなとツイートした。はた目からは病んだ人間のつぶやきにしか見えないかもしれないが、まあそういうわけではなくて、エンターテインメントの素晴らしさ、つまり、想像力には現実に美しい色を…

第166回芥川龍之介賞 受賞作予想

芥川賞候補作を全て読み終わったため、各作品の感想と受賞作の予想を書き記す。 最も身体に迫る気迫を感じたのは砂川文次「ブラックボックス」であった。読了後しばらく鉄アレイで後頭部をぶん殴られたようなショックからしばらく抜けだすことができなかった…

2021年12月31日の日記

大晦日。犯罪的な寒さ。実家に帰るかどうか迷った挙句、3時間の大作ということで後回しにしていた『ドライブ・マイ・カー』を観るために吉祥寺に行くことにした。JR吉祥寺駅駅直結のアトレを通って、北口の平和通り(調べたらそういう名前らしい)を歩いてパル…

2021年邦楽マイベスト(シングル)

1. ミツメ / Basic(feat.STUTS) 今年は今まであまり聞いてこなかったポップミュージックを意識的に聴くようにした一年でしたが、結局はずっと前から好きなミツメが一番でした。STUTSとのコラボが功を奏し、サイケデリックさを維持したままポップにまとめられ…

2021年10月3日の日記

起き抜けの体に最大照度の陽光が打ち付けている。枕もとに置かれたスマートフォンを手に取る。9時3分。休日の膨大さに甘えて、即座に起き上がることはなく、布団の中でぬくぬくとしている。YouTubeやTwitterを何周かして、伸びをすると、気が付くと10時。時…

文化力の敗退

五輪閉会式を見た。真っ先に思い出したのは、角川書店創業者・角川源義による「角川文庫発刊に際して」の文章である。 第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗退であった。私たちの文化が戦争に対して如何(いか)に無…

昭和歌謡ベストソングス30

ミュージック・マガジン 2021年 7月号 ミュージック・マガジン Amazon ミュージックマガジンの特集「昭和歌謡ベスト・ソングス100[1970年代編]」が面白かったため個人でもやってみようという試みである。 対象は昭和の時代にシングルとしてリリースされた…

今泉力哉『街の上で』

愛おしい映画だ。 下北沢の街で繰り広げられるこの物語は、いってみれば大したことは起こらない。若葉竜也演じる男と彼を取り巻く四人の女性が繰り広げる群像劇なのだが、そこでは劇的な演出や会話が徹底的に排除されている。どもり、つっかえ、聞き逃し、聞…

地図に穿つ

これまで訪れてきた場所を余すことなくグーグルマップに登録しようと思っている。ひとりで勝手に進めている極めて個人的なプロジェクトだ。誰に見せるわけでもない。何かに役立つわけでもないだろう。ただ個人的な記憶の外付けハードディスクとして、電子地…

しんにょう(あるいはしんにゅう)

幼いころの記憶に残るしんにょう(あるいはしんにゅう)は辶であったけれど、いまモニターに映し出される「辻」のしんにょう(あるいはしんにゅう)は何度目を凝らしても辶だった。ふたつも点が乗っている。おかしな形に困惑しながら、しかしこれはつい今しがた…

光の粒

微かな温もりをはらみ始めた潮風が自由気ままに荒ぶる二月の砂浜は、どこまで行っても誰もいなくて、いつか見たあの景色に似ている。寄せては返す波のごとく、心に去来する寂しさが心地よくなるころには、生きる意味さえも超えていく。 真っ白な砂浜に横たわ…

よくわからない

あるひ私は一大決心をして文庫本の中にもぐってやった。物語は思ったよりも深さが無くてがっくりしたけれど、横の世界はどこまでも続いていて胸が高鳴る。水中から浮き上がってくる言葉たちを吸って吐いていれば息はいつまでも持つようである。 ずっと泳いで…

撃たれなかった拳銃

「チェーホフがこう言っている。物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない、と」「物語の中に、必然性のない小道具は持ち出すなということだよ」 村上春樹『1Q84』より この言葉に出会って、私は一種の怒りを覚えた。意味があること…

想像力の限度

ずっと自分の中で燻り続けているモチーフがある。極夜の東京。そんなものを想像してみると楽しくて仕方がない。もともと、ceroの「orphans」という曲で歌われる白夜の街という設定がすごく素敵に思っていた。単純な思考であるが、では逆に極夜とはどういった…

踊る理由が街にあふれて

片想い「踊る理由」のライブ映像をYouTubeで見ていたら、こんなコメントを見つけた。 ぞくぞくした。震えた。自分は何で泣いてるんだろう 投稿は1週間前、いいねも返信も一つもついていない。コメント主がどのような思いでこの言葉を残したのかは分からない…

Homecomingsというバンド

Homecomingsが昨年クリスマスに行ったライブ「BLANKET TOWN BLUES」を視聴した。本来であれば会場に赴いて直接お目にかかりたかったライブだが都合がつかず、その後アーカイブ配信をしていたのも知っていたのだがタイミングを逸していて、けっきょく配信最終…

【受賞作予想】第164回芥川龍之介賞

芥川賞候補作全部読む企画第三弾。今回も粒ぞろいでした。さっさと作品ごとの感想に移ります。読了順。 尾崎世界観 「母影」 母影(おもかげ) 作者:尾崎 世界観 発売日: 2021/01/29 メディア: 単行本 クリープハイプは実は食わず嫌いしているバンドの一つだっ…

『地球の歩き方』東京編 を買う

J01 地球の歩き方 東京 2021~2022 発売日: 2020/09/02 メディア: 単行本(ソフトカバー) 自分がほかの人からどのように見られているのか、とても気になる人間だ。そんなの気にしないで自分らしく生きようぜみたいなノリの人は全員とは言わずともたいてい偽…

2020/7/23の日記

人生2回目のコストコ。全てが馬鹿デカくてアメリカンな気分に浸れるのが良いのだけれど、すごい密な状態でこのご時世に少し心配ではある。吉本ばなな『TUGUMI』を初めて読む。エンタメ的なストーリー展開の中で時折ひかる情景描写の鋭さが魅力的。これが80年…

2020/7/22の日記

アパートの外廊下に信じられない大きさのクモが巣を張っている。コバエとか害虫を捕食してくれるので有難い存在だと決めつけて駆除していないが大丈夫だろうか。

2020/7/21の日記

Pavementの「Spit On A Stranger」が最高だ。在宅勤務中もずっと聴いている。もともとはhomecomingsのガバーで知った曲。この黄昏感がたまらない。話は変わるけれど、2020年という時代の何処かには我々の知らないもう一つの世界線が広がっているような気が最…

2020/7/20の日記

『天気の子』公開から一年が経ったらしい。YouTubeでPVを見返したけれど、たった2分でこんなにワクワクさせる予告は他にないんじゃないか。天気ってのは人間にはどうすることもできないことのメタファーであって2020年の状況とリンクしてる云々も語りたいが…

SaToA

youtu.be 最近はずっとSaToAを聴いている。とってもポップなんだけれども、ちょっと不安になることがある。心地よい不穏。なんだか今村夏子の小説を読んでいるような気分にさせてくれるバンドなのだ。 むかし、rumania montevideoというバンドがあった。それ…

KAITO『青のフラッグ』

青のフラッグ 8 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:KAITO 発売日: 2020/06/04 メディア: Kindle版 高校三年生の太一は、ある日クラスメイトの二葉から相談を受ける。それは、太一の幼馴染・トーマへの恋慕の話であった。太一は、二葉とトーマをくっつけるた…

ここしばらく

4/27月 雨。一日在宅でデスクワークしていたせいなのかわからないが椅子に座っていると地震でもないのに揺れている気分を感じる。エコノミー症候群?憂さ晴らしに昨日配信されていたサンボマスターのライブ映像アーカイブ(すでに削除済み)を見て発狂していた…

ここしばらく

4/17(金) 在宅勤務に嫌気がさしたので有給。免許期限が迫っていたため石神井までチャリを飛ばして延長手続き。途中で通りかかった石神井公園がとてもいい感じだったので落ち着いたらまた来たい。坂道を思いきり下る時、全身に受ける春の風がなんだか寂しくて…