巨大の力

『まだ結婚できない男』最終回を見終えた。前作ほどの面白おかしさはなくなってしまったが、それでもくだらないやり取りに十分楽しませてもらった。ドラマを全作完走できたのはいつ以来であろうか。阿部寛の動作がいちいち面白い。ただ背中を丸めて歩くだけ…

運動不足が過ぎるのか膝を曲げるたびに変な音が鳴るのだがまずいのでしょうか。実家にいる時はランニングコースが近くにあったためほぼ毎日走っていたら時期もあるのだけれど、引っ越してからはさっぱり。一応駅まで徒歩で20分くらいかかるのでそれを運動と…

知らない気持ち

朝が光る。特に思い入れのない街が後ろへ過ぎていく。中央線から見える景色がとても好きで、あの家にも誰かが住んでいて自分の知らない生活が営まれているのだと思う得もいえぬ気持ちが胸に去来したりする。それにしても、この捉え難い感情は何だ。物心がつ…

ちょうど良さ

12/4 〜 12/9 ここ数日は「しもふりチューブ」のオフ企画にすっかりハマっている。本当にたわいもないやり取りが続くだけの動画なのだけれど、せいやの家での二人の寛ぎようであったり、ドライブの合間に交わされる下らない掛け合いであったりに、実家のよう…

武田綾乃『石黒くんに春は来ない』

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫) 作者:武田 綾乃 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2019/12/05 メディア: 文庫 学生時代を思い返すと怒りが止めどなく噴出してどうにもならない。スクールカーストとかいう現代の階級制度に虐げられた我々第三身分は、ただ…

But I’m a creep

Radioheadはあまり詳しくはないのだが、『creep』は世界で七番目くらいに好きな曲。"But I'm a creep"って歌詞はもはや家訓にしたい。美しい世界に入り込みすぎて自分の醜さに気付いてしまう哀れな男の歌。まあ、この歌詞の良さが分からない人間が人生の勝ち…

笑う

M-1グランプリ2019のファイナリストが発表された。事前予想は願望込み込みでこんな感じ(和牛、かまいたち、ミキ、四千頭身、金属バット、ダイタク、ミルクボーイ、ぺこぱ、すゑひろがりず)であったが、後ろ三組の全通過は全くだに予想しなかった。大波乱の選…

全身!

怪文が好きだ。有名な2ちゃんねるのスレッドで「消えたとて浮かぶもの」というものがあるのだがこれが正しく理想型。 たとえばそれは台所にあるとします私がそれを取ろうとすると浮かんでいたはずのものも沈みますね?だから最初から消えていたと理解して撮…

松屋という地獄

12/2 世界各地の安飯屋を回ってきたが、松屋ほど地獄の様相を呈した飲食店は他にないと思うのである。食券機の使い方がわからないと喚く老人、混んでいるのに荷物で椅子を埋める肉体労働者、高級レストラン並みのサービスを求める淑女、虫すら住みつかない衛…

同じ名前の双子

12/1 ツイッターで回ってきた『タッチ』に関する記事を読んで改めて思ったのであるが、大事なことをそのまま語らない「照れ」の感覚こそがあだち充作品の醍醐味である。「人の死の受容」という重厚なテーマを扱いながらクサさを徹底的に排除して『タッチ』を…

すゑひろがりず

11/30 すゑひろがりずをご存知か。狂言を取り入れた漫才でM-1準決勝に勝ち進んだ異色のお笑いコンビである。神聖視されがちな伝統芸能と笑いとの親和性が意外と高いことはチョコレートプラネットが証明済みであるが、教養とくだらなさのアンバランスを極限ま…

青の青さ

11/29 空が青い。それだけでこの季節が好きになる。肌を刺す冷たい風も、朝の二度寝も、全部が青空に落ちていく。charaがYEN TOWN BANDで歌った「この空の青の青さに心細くなる」という詩が心の裏まで染み渡る。今は、そんな季節だ。 Swallowtail Butterfly~…

公共料金

11/28 公共料金が面倒くさい。何事も動きが鈍いタイプだという自覚はあったが、遂に料金滞納で水道を止められる寸前まで行ってしまったから自分でも情けない。流石に年貢の納め時、仕方なくコンビニで支払いを済ませる。元はと言えば口座引き落としの申請を…

明日も書けるかな

11/27 久しぶりに筆を取った要因は先日足を運んだ文学フリマにある。仰山の暇人たちが何の役にも立ちやしない文学なんてものに熱を上げている様子に感動して以来、何かを書こうという衝動に駆られている。そこに来て、昨日とある友人となんとなしにLINEをし…

BEST BOOKS 2018

対象は2018年に刊行された単行本および文芸誌に掲載された文章。 20. 古川真人『窓』 新潮 2018年 07 月号 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/06/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 19. 畑野智美『水槽の中』 水槽の中 作者: 畑野智…

森見登美彦『熱帯』

「重い、真摯なものを避け、斜めに書く姿勢をよしとしている作風が鼻につく」と難癖をつけられてからはや12年。時は満ち、ついにリベンジの時。森見登美彦の新作『熱帯』が満を持して直木賞へと突き進む。 君はもう読んだであろうか。この傑作を。 この本を…

石田祐康『ペンギン・ハイウェイ』

ぼくはそのふしぎさをノートに書こうとしたけれど、そういうふしぎさを感じたのはノートを書くようになってから初めてのことだったから、うまく書くことができなかった。ぼくは「お姉さんの顔、うれしさ、遺伝子、カンペキ」とだけメモを残した。 夏休み。今…

新しいという不気味の快楽 ―鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」を読んで―

分かりやすいということは心地よい。それは僕らの存在を一見無条件に肯定してくれるから。良いものが悪いものをうち倒すという明快なストーリーに世界の溜飲が下がる。同じ感情を共有するという安楽に包まれて、僕らは自分が世界に生きていることを再度確認…

鄭義信『焼肉ドラゴン』

「言わなければ分からないじゃないか」と言う人がいる。コミュニケーションができなければ人間として価値がないのだとでも言うように。でも、本当の痛みは言葉にはなれない。はっきりと言える人間に、この苦しみが分かるのだろうか。 この『焼肉ドラゴン』と…

平野啓一郎「ある男」

「自分とは誰なのか」という問題に一度は突き当たったことがあるのではないか。今まさにここにいる自分と、一秒前にここにいた自分が同じ人間だとだれが断言できるのだろう。この世界には無数の自分がいて、その時々で違う自分が顔を出すのかもしれない。こ…

崎山蒼志という怪物の衝撃

崎山蒼志という怪物の才能に踏みつぶされてしまった。AbemaTV「日村がゆく!」で披露されたその楽曲の素晴らしさに魅せられた人は多いのでは。向井秀徳を彷彿とさせる存在感。不安定なボーカルと疾走するそのギターは、自転車でぐっと冬の坂を下るときのよう…

山田尚子『聲の形』 投げて、落ちて、拾われる

『リズと青い鳥』の興奮に便乗して、恥ずかしながら見視聴だった『聲の形』をTSUTAYAで借りてきた。 全体のモチーフをさりげない描写の一つ一つに投射していく丁寧さ、言葉の外への真摯なまなざし、観る人の感情を動かすエンターテインメント性。傑作である…

山田尚子『リズと青い鳥』 互いに素の美しさ

どうやら、完璧な美しさに出会ってしまったらしい。 Homecomingsのエンディング目当てだった『リズと青い鳥』という映画にすっかりやられてしまった。京都の高校を舞台に、二人の少女の関係を描いた90分。自分には訪れることのなかった麗しき青春を前にひれ…

私の理想郷を返してください

赤の他人の旅行なんて、とことん興味がないものである。 この荒涼としたインターネット砂漠に星の数ほどのさばる旅行記を見るといつもそう思う。ほら、よくバックパッカーがやってるでしょ。訪問先の国で体験したあれこれを書き連ねたブログ。確かにそういう…

国分拓「ノモレ」

集団の記憶というものが、ある。 脳裏に蘇る光景が、なんだか自分一人の記憶でない気がしてくる。それは確かに僕が見た景色なのだけれども、僕ら(・・)が見ていたような感じもする。そんな体験が、ある。 新潮 2018年 02 月号出版社/メーカー: 新潮社発売…

BEST BOOKS 2017

2017年に刊行された単行本と文芸誌に掲載された作品が対象 10.橋爪駿輝『スクロール』 9.坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』 8.森見登美彦『太陽と乙女』 7.佐藤正午『月の満ち欠け』 6.こだま『夫のちんぽが入らない』 5.石井遊佳「百年泥」 4.滝口悠生『高架…

ミツメ「エスパー」

あれは高校二年生の時だったか。冬。新宿のタワーレコードであるポップが目に入った。「スピッツとくるりのいいとこどり」たしかこんなうたい文句だったと思う。視聴してみた。泣いた。こんなにも自分の理想と合致したバンドがあることに、舞い上がってしま…

スピッツ『オーロラになれなかった人のために』

オーロラになれなかった人のために アーティスト: スピッツ 出版社/メーカー: ポリドール 発売日: 1992/04/25 メディア: CD この商品を含むブログ (22件) を見る エスキモーの言い伝えによると、死んだ人間はオーロラになるという。「オーロラになれなかった…

前田司郎「愛が挟み撃ち」

文學界掲載の前田司郎「愛が挟み撃ち」を読んだ。 文學界2017年12月号 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/11/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 「愛の挟み撃ち」ではなく「愛が挟み撃ち」であるところがまず信頼できる。二人の男…

三島由紀夫『仮面の告白』

本日快晴。外では木枯らし一号が吹き荒れる。真っ青に晴れた高い空の下で、冬の訪れを感じさせるカラッとした北風に吹かれる瞬間の感情。夏の反対側に来てしまったという悲しい喜びが、憂いの光を浴びた冷たい頬を染めていく。こんな気持ちをみんなと分かち…