ミツメ「エスパー」

あれは高校二年生の時だったか。冬。新宿のタワーレコードであるポップが目に入った。「スピッツくるりのいいとこどり」たしかこんなうたい文句だったと思う。視聴してみた。泣いた。こんなにも自分の理想と合致したバンドがあることに、舞い上がってしまうような嬉しさと、先を越されてしまった悔しさがこみ上げた。「クラゲ」という曲。ミツメのファーストである。 

mitsume

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 ポップというものは才能である。そのメロディに乗せる日本語の感性はもっと天性のもの。だからスピッツは偉大なのだ。そしてミツメ。甘美なツインギターが鳴らすメロディはどこか寂しさも含みながら感情の奥深くに染み渡る。どこかで見た景色、いつか抱いた感情。「甘い夢 旅に出て 何もかもぐしゃぐしゃに」「君の夢 僕の肌 触れたくて さかさまに僕らは飛び出す」「コーラ自販機で買って 飲みながら帰ろう どこにでもあって 君思い出すね」流れるように後ろ向きな言葉たちが想いの懐をかすめていく。ギター二人、ベース、ドラムという王道のバンド編成もまた最高だ。まさしくスピッツの正当な後継者。しかし、次作で彼らはそんな期待をはるか斜め上に飛び越えていく。

 

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四畳半ロックとでもいうべきファーストの空間を壮大なスケールで飛び越えていく。シンセサイザーの爆音の中で僕らは宇宙に包まれる。遠くにモノクロの海が見える。「次に住むなら 火星の近くが良いわ ここじゃなんだか 夏が暑過ぎるもの」というリリックも最高だ。根底にあるポップの精神はそのままに、一つ上の次元に。日本の音楽シーンはもとより、なにか10年代という時代が人類史の新たな境地にたどり着いてしまったかのような心地を感じた。

それからのミツメは、やや自分の理解の届かないところへと音楽性を進めてしまった感が否めないのだが、今年10月に久々に見たライブでその技量の深化に圧倒された。何といってもカッコイイ。演奏力は格段に向上したし、何よりも新曲。それはスピッツだった。紆余曲折はあったが、それまであちこちを彷徨った音楽性の体験を通して、ファーストのポップさをさらに昇華させた完璧な一曲であった。


ミツメ - エスパー

その新曲「エスパー」のMVが公開された。コメント欄にある「何もかも思い出した。」という一言がぐっとくる。必聴。