2018-01-01から1年間の記事一覧

BEST BOOKS 2018

対象は2018年に刊行された単行本および文芸誌に掲載された文章。 20. 古川真人『窓』 新潮 2018年 07 月号 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/06/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 19. 畑野智美『水槽の中』 水槽の中 作者: 畑野智…

森見登美彦『熱帯』

「重い、真摯なものを避け、斜めに書く姿勢をよしとしている作風が鼻につく」と難癖をつけられてからはや12年。時は満ち、ついにリベンジの時。森見登美彦の新作『熱帯』が満を持して直木賞へと突き進む。 君はもう読んだであろうか。この傑作を。 この本を…

石田祐康『ペンギン・ハイウェイ』

ぼくはそのふしぎさをノートに書こうとしたけれど、そういうふしぎさを感じたのはノートを書くようになってから初めてのことだったから、うまく書くことができなかった。ぼくは「お姉さんの顔、うれしさ、遺伝子、カンペキ」とだけメモを残した。 夏休み。今…

新しいという不気味の快楽 ―鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」を読んで―

分かりやすいということは心地よい。それは僕らの存在を一見無条件に肯定してくれるから。良いものが悪いものをうち倒すという明快なストーリーに世界の溜飲が下がる。同じ感情を共有するという安楽に包まれて、僕らは自分が世界に生きていることを再度確認…

鄭義信『焼肉ドラゴン』

「言わなければ分からないじゃないか」と言う人がいる。コミュニケーションができなければ人間として価値がないのだとでも言うように。でも、本当の痛みは言葉にはなれない。はっきりと言える人間に、この苦しみが分かるのだろうか。 この『焼肉ドラゴン』と…

平野啓一郎「ある男」

「自分とは誰なのか」という問題に一度は突き当たったことがあるのではないか。今まさにここにいる自分と、一秒前にここにいた自分が同じ人間だとだれが断言できるのだろう。この世界には無数の自分がいて、その時々で違う自分が顔を出すのかもしれない。こ…

崎山蒼志という怪物の衝撃

崎山蒼志という怪物の才能に踏みつぶされてしまった。AbemaTV「日村がゆく!」で披露されたその楽曲の素晴らしさに魅せられた人は多いのでは。向井秀徳を彷彿とさせる存在感。不安定なボーカルと疾走するそのギターは、自転車でぐっと冬の坂を下るときのよう…

山田尚子『聲の形』 投げて、落ちて、拾われる

『リズと青い鳥』の興奮に便乗して、恥ずかしながら見視聴だった『聲の形』をTSUTAYAで借りてきた。 全体のモチーフをさりげない描写の一つ一つに投射していく丁寧さ、言葉の外への真摯なまなざし、観る人の感情を動かすエンターテインメント性。傑作である…

山田尚子『リズと青い鳥』 互いに素の美しさ

どうやら、完璧な美しさに出会ってしまったらしい。 Homecomingsのエンディング目当てだった『リズと青い鳥』という映画にすっかりやられてしまった。京都の高校を舞台に、二人の少女の関係を描いた90分。自分には訪れることのなかった麗しき青春を前にひれ…

私の理想郷を返してください

赤の他人の旅行なんて、とことん興味がないものである。 この荒涼としたインターネット砂漠に星の数ほどのさばる旅行記を見るといつもそう思う。ほら、よくバックパッカーがやってるでしょ。訪問先の国で体験したあれこれを書き連ねたブログ。確かにそういう…

国分拓「ノモレ」

集団の記憶というものが、ある。 脳裏に蘇る光景が、なんだか自分一人の記憶でない気がしてくる。それは確かに僕が見た景色なのだけれども、僕ら(・・)が見ていたような感じもする。そんな体験が、ある。 新潮 2018年 02 月号出版社/メーカー: 新潮社発売…