文学

第166回芥川龍之介賞 受賞作予想

芥川賞候補作を全て読み終わったため、各作品の感想と受賞作の予想を書き記す。 最も身体に迫る気迫を感じたのは砂川文次「ブラックボックス」であった。読了後しばらく鉄アレイで後頭部をぶん殴られたようなショックからしばらく抜けだすことができなかった…

【受賞作予想】第164回芥川龍之介賞

芥川賞候補作全部読む企画第三弾。今回も粒ぞろいでした。さっさと作品ごとの感想に移ります。読了順。 尾崎世界観 「母影」 母影(おもかげ) 作者:尾崎 世界観 発売日: 2021/01/29 メディア: 単行本 クリープハイプは実は食わず嫌いしているバンドの一つだっ…

滝口悠生『高架線』

高架線 作者:滝口 悠生 発売日: 2017/09/28 メディア: 単行本 どろどろに煮込んだカレーにはたくさんのスパイスや具材が溶け込んでいるかもしれないけれど、出来上がるころになればその一つ一つはもとの形もわからないほどぐちょぐちょになってもう何が何だ…

角幡唯介『旅人の表現術』

旅人の表現術 (集英社文庫) 作者:角幡 唯介 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2020/02/20 メディア: 文庫 ノンフィクション本大賞『極夜行』で一躍名を馳せた極地旅行家兼ノンフィクション作家・角幡唯介。本書は、彼がこれまで発表してきた対談や書評をまと…

【受賞作予想】第162回芥川龍之介賞

今年も芥川賞の季節がやって来た。半年に一回だけど。候補作全部読むぞと毎回意気込みながら成し遂げられていなかった。発表までに単行本で出揃わないことが多く、全ての作品に目を通すためには文芸誌のバックナンバーを漁らないといけないなど、意外とハー…

村田沙耶香『変半身』

変半身(かわりみ) (単行本) 作者:村田沙耶香 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2019/11/28 メディア: 単行本 二作収録。人間の内に潜むどろどろとした何かが共通のテーマだろう。まずは表題作。信仰とは何か。身体はただの入れ物なのか。文化や伝統を相対…

武田綾乃『石黒くんに春は来ない』

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫) 作者:武田 綾乃 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2019/12/05 メディア: 文庫 学生時代を思い返すと怒りが止めどなく噴出してどうにもならない。スクールカーストとかいう現代の階級制度に虐げられた我々第三身分は、ただ…

BEST BOOKS 2018

対象は2018年に刊行された単行本および文芸誌に掲載された文章。 20. 古川真人『窓』 新潮 2018年 07 月号 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/06/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 19. 畑野智美『水槽の中』 水槽の中 作者: 畑野智…

森見登美彦『熱帯』

「重い、真摯なものを避け、斜めに書く姿勢をよしとしている作風が鼻につく」と難癖をつけられてからはや12年。時は満ち、ついにリベンジの時。森見登美彦の新作『熱帯』が満を持して直木賞へと突き進む。 君はもう読んだであろうか。この傑作を。 この本を…

新しいという不気味の快楽 ―鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」を読んで―

分かりやすいということは心地よい。それは僕らの存在を一見無条件に肯定してくれるから。良いものが悪いものをうち倒すという明快なストーリーに世界の溜飲が下がる。同じ感情を共有するという安楽に包まれて、僕らは自分が世界に生きていることを再度確認…

平野啓一郎「ある男」

「自分とは誰なのか」という問題に一度は突き当たったことがあるのではないか。今まさにここにいる自分と、一秒前にここにいた自分が同じ人間だとだれが断言できるのだろう。この世界には無数の自分がいて、その時々で違う自分が顔を出すのかもしれない。こ…

国分拓「ノモレ」

集団の記憶というものが、ある。 脳裏に蘇る光景が、なんだか自分一人の記憶でない気がしてくる。それは確かに僕が見た景色なのだけれども、僕ら(・・)が見ていたような感じもする。そんな体験が、ある。 新潮 2018年 02 月号出版社/メーカー: 新潮社発売…

BEST BOOKS 2017

2017年に刊行された単行本と文芸誌に掲載された作品が対象 10.橋爪駿輝『スクロール』 9.坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』 8.森見登美彦『太陽と乙女』 7.佐藤正午『月の満ち欠け』 6.こだま『夫のちんぽが入らない』 5.石井遊佳「百年泥」 4.滝口悠生『高架…

前田司郎「愛が挟み撃ち」

文學界掲載の前田司郎「愛が挟み撃ち」を読んだ。 文學界2017年12月号 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2017/11/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 「愛の挟み撃ち」ではなく「愛が挟み撃ち」であるところがまず信頼できる。二人の男…

三島由紀夫『仮面の告白』

本日快晴。外では木枯らし一号が吹き荒れる。真っ青に晴れた高い空の下で、冬の訪れを感じさせるカラッとした北風に吹かれる瞬間の感情。夏の反対側に来てしまったという悲しい喜びが、憂いの光を浴びた冷たい頬を染めていく。こんな気持ちをみんなと分かち…

前野ひろみち『ランボー怒りの改新』

蘇我入鹿ロケットランチャーをぶちかますこの本を、読んだ人間の十人に八人は阿呆の世界だと表現するだろう。あとの二人は阿呆である。 ランボー怒りの改新 (星海社FICTIONS) 作者: 前野ひろみち,KAKUTO 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/08/11 メディ…

佐藤正午『月の満ち欠け』

輪廻というものがあるかと問われたら、何と答えるだろうか。「科学的」に答えるのならば、そんなものはないよとうそぶくほかない。死とは、向う側のない完璧な絶望である。人間は死んだら、一つの肉塊となるのだから、脳の活動停止とともに魂も消えるし、魂…

石井遊佳「百年泥」

新潮新人賞「百年泥」を読んだ。 新潮 2017年 11 月号 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/10/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る インドのチェンナイで日本語教師を務める女性の物語。作中、特に何かが起きるわけではなく、下手をする…

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最近読んだ本や聞いている音楽について 椎名誠『パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り』 パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)作者: 椎名誠出版社/メーカー: 集英社発売日: 1994/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 26回この商品を含…

魯迅『故郷』

魯迅『故郷』を読んだ。阿Q正伝 (角川文庫)作者: 魯迅,増田渉出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1961/04メディア: 文庫 クリック: 48回この商品を含むブログ (14件) を見る題名だけみると郷愁の想いをテーマにした物語に思えるが、この作品で描かれる「故郷…