映画

今泉力哉『街の上で』

愛おしい映画だ。 下北沢の街で繰り広げられるこの物語は、いってみれば大したことは起こらない。若葉竜也演じる男と彼を取り巻く四人の女性が繰り広げる群像劇なのだが、そこでは劇的な演出や会話が徹底的に排除されている。どもり、つっかえ、聞き逃し、聞…

中川龍太郎『わたしは光をにぎっている』

地元立石が舞台ということで気になっていた作品『わたしは光をにぎっている』を観に新宿武蔵野館へ。正直内容にはそれほど期待してはいなかったのだけれど、とても美しい映画であった。登場人物が喋りすぎない。そこがとにかく良い。 この作品にとって「場所…

石田祐康『ペンギン・ハイウェイ』

ぼくはそのふしぎさをノートに書こうとしたけれど、そういうふしぎさを感じたのはノートを書くようになってから初めてのことだったから、うまく書くことができなかった。ぼくは「お姉さんの顔、うれしさ、遺伝子、カンペキ」とだけメモを残した。 夏休み。今…

鄭義信『焼肉ドラゴン』

「言わなければ分からないじゃないか」と言う人がいる。コミュニケーションができなければ人間として価値がないのだとでも言うように。でも、本当の痛みは言葉にはなれない。はっきりと言える人間に、この苦しみが分かるのだろうか。 この『焼肉ドラゴン』と…

山田尚子『聲の形』 投げて、落ちて、拾われる

『リズと青い鳥』の興奮に便乗して、恥ずかしながら見視聴だった『聲の形』をTSUTAYAで借りてきた。 全体のモチーフをさりげない描写の一つ一つに投射していく丁寧さ、言葉の外への真摯なまなざし、観る人の感情を動かすエンターテインメント性。傑作である…

山田尚子『リズと青い鳥』 互いに素の美しさ

どうやら、完璧な美しさに出会ってしまったらしい。 Homecomingsのエンディング目当てだった『リズと青い鳥』という映画にすっかりやられてしまった。京都の高校を舞台に、二人の少女の関係を描いた90分。自分には訪れることのなかった麗しき青春を前にひれ…