前野ひろみち『ランボー怒りの改新』

蘇我入鹿ロケットランチャーをぶちかますこの本を、読んだ人間の十人に八人は阿呆の世界だと表現するだろう。あとの二人は阿呆である。

ランボー怒りの改新 (星海社FICTIONS)

ランボー怒りの改新 (星海社FICTIONS)

 

 私事であるが奈良に行った試しがない。京都のバーターとしての修学旅行先という鉄板の出会いを果たすことのなかった奈良と私は、月日が流れても交わることがなく、大仏の御姿もシカの闊歩もついぞ拝んだことがないまま過ごし、思えば関西で唯一行ったことのない県になっていた。別に奈良に興味がなかったわけではない。何度か行ってみようかしらと脳内会議にかけたことはあるが、「奈良?ああ劣化版京都でしょ」という脳内冷笑派議長の主張を論破することができずことごとく退けられてきただけである。まあ少なくとも、仮に宇宙人が攻め込んできて都道府県のうち一つを割譲しなければならない事態になったら平気で差し出す心構えはある。奈良と私はその程度の間柄だ。そんな奈良が気になる存在になったのは、一冊の本に対するある作家の推薦文を目にしてからである。

森見登美彦*1氏、激怒!?
「私の奈良を返してください!
さすがにこれはいかがなものか!」

なんだこれは。推薦しているのか非難しているのかすらよくわからんが、これは確実に阿呆の匂いがするではないか。読んでみるとやはり期待を裏切らない。法興寺フットボール大会でタッチダウンを決める中臣鎌足も、恋文をシカに食べられる中学男子も、岩場でダンスして転落する親父も、根っからまじめなのに「小説とは病的なものである」と思い込んでいる文学青年も、みんな阿呆。そしてそれらはすべて、奈良という土地の上で展開される。そんな阿呆製造工場的風情を醸し出す奈良に、ほんの少しだけ行ってみたくなったのである。

*1:余談だが、本作品が同人誌に掲載された際、「あの作家なのか?夜は短いのか?」という問い合わせが相次いだというエピソードがとても面白い