三島由紀夫『仮面の告白』

本日快晴。外では木枯らし一号が吹き荒れる。真っ青に晴れた高い空の下で、冬の訪れを感じさせるカラッとした北風に吹かれる瞬間の感情。夏の反対側に来てしまったという悲しい喜びが、憂いの光を浴びた冷たい頬を染めていく。こんな気持ちをみんなと分かち合いたいと思うのだけれども、社会側の感動のコードに合致しないのではないかという不安。同時に、この良さが分かるのは自分だけだという傲慢さを感じさせてしまうのではないかという不安。僕らは黙る。そして、一瞬の感情は消えていく。

仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

 

三島由紀夫仮面の告白』は、そんな声を与えられてこなかった記憶や思索、感情に命を与える魔術書なのかもしれない。生まれたときの光景を今でも覚えていること、糞尿汲取人にあこがれること、「殺されること」に性的興奮を覚えること。そんなことを現実で言い張れば、良くて「変わった人」、悪ければ「狂気を装う社会不適合メンヘラ」として煙たがられること間違いなし!そういう「おかしな」感情を抱いてしまう僕らは、常識の世界の人間という「仮面」を被って社会で生きていく。それでも、やっぱり自分抱いた感情は大事にしたいと思うから、僕らは「まじめな人」よりも「変わった人」に憧れる。なぜなら「変わった人」は、おかしな感情をうまく発露できるひとだから。

諸君は常識の世界に住んでいながら、非常識の世界に憧標れている人々である。

ドグラマグラ

その意味で三島由紀夫は、おかしな感情をふさわしいメディアで、ふさわしい時代に、ふさわしい方法で世間に伝えることのできた、最強の中二病だったのである。

 

余談にはあるが古本で購入した本書の中に面白い書き込みがあったので一応載せておきます。

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