豊田徹也『アンダーカレント』

たまたまブックオフで100円で売り出されていたために購入した『アンダーカレント』という単巻完結のコミックが思いの外素晴らしかった。とても映画的な作品である。あらすじ。主人公のかなえは、夫の突然の失踪に戸惑いながらも家業の銭湯経営に邁進する。従業員として雇用した同年代の男性堀と微妙な距離感を保ちながら、物語は終始「不在」の外周を回り続ける。夫はなぜ姿を眩ませたのか、銭湯従業員を敢えて志望した堀の真の目的とは、そしてかなえの抱える心の闇とはいったい…。徐々に明らかとなるさまざま事実を、語りすぎず、一方的な解釈の押し付けを排して描いていく様が気に入った。それに、あだち充作品に登場しそうな愉快さと実直さを持ち合わせた愛すべきキャラクターたちもまたいいのだ(サブ爺というおっせっかいな三枚目キャラは『タッチ』の原田を喚起させる)。そして、『わたしは光を握っている』を鑑賞した際にも思ったのだが、銭湯はとても優れた舞台装置たりうることを改めて実感させられた(水の輝き、壁一枚で男湯女湯が限られた空間構造など)。映画化して欲しいな。

アンダーカレント  アフタヌーンKCDX

アンダーカレント アフタヌーンKCDX