光の粒

微かな温もりをはらみ始めた潮風が自由気ままに荒ぶる二月の砂浜は、どこまで行っても誰もいなくて、いつか見たあの景色に似ている。寄せては返す波のごとく、心に去来する寂しさが心地よくなるころには、生きる意味さえも超えていく。

真っ白な砂浜に横たわる君が死んでいく。君は、うつろな目をして遠く見つめながら、すべてが海であった時のことを思うのだろう。初めて光を見た刹那に流したうれしさの涙を懐くのだろう。

僕らは君の大きな体が朽ちてしまう日を待っている。じっくりと涙に溶けていく日を待っている。君と過ごした日々が霞の彼方に見えなくなる日を待っている。それでも、触れては消えてしまうような脆さで、君は息をし続けるのだ。

君はときおり悲しみを嘶く。咆哮のようには響き渡らない諦めを心得ながら、吹き付ける風の声にかき消されない程度の力強さを保ちながら、目の前で消えていく

遠く沖の方で光の粒が跳ねる。水面に跳ね返った光はどうしてこんなに美しいのだろうか。死に行く君すら照らしていくすべての光が、ああ僕らの終わりを開くのだ。世界はいつも美しい。

君は海に戻そうとする合間に死んだ。ついに死んだ。僕は沖に船を漕いで、君のすべてを海に葬った。沖の海を間近に見るとと、光ってなんていなかった。どっぷりとした厚みを持った青黒さがのっぺりと広がっているだけだ。こんなに分厚い壁の下で眠る君を思って少し泣く。二月の風は、しっかりと冷たかった。