2021年12月31日の日記

晦日。犯罪的な寒さ。実家に帰るかどうか迷った挙句、3時間の大作ということで後回しにしていた『ドライブ・マイ・カー』を観るために吉祥寺に行くことにした。JR吉祥寺駅駅直結のアトレを通って、北口の平和通り(調べたらそういう名前らしい)を歩いてパルコへと向かう。寒い。地下二階のアップリンク吉祥寺で半券を購入。時計を見ると、いや、スマホを見ると、12時を少し過ぎたところ。上映自体は15時からなので時間がある。だいぶ早めに到着したのには、というよりオンライン決済をせずに現地購入を選んだのには理由があって、なんと年末はメンテナンスでオンライン決済ができないらしく、早めにやってきた。時間つぶしに街をめぐることにする。地下一階のディスクユニオンにはたくさん人がいてガンガンに音楽を流していた。ミュージックマガジン2月号を立ち見。2021年ベストアルバム、J-pop部門で上白石萌音『あの歌』が選ばれていて嬉しかった。本当に良いカバーばかりです*1

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続いてごはんを食べようとパルコを出て、コピエの方に歩いていく。商店街には大量の人がいてちょっとうんざり。寒空の下、大みそかの街は新年の買い出しに勤しむ人々の活気で満たされていて、その中でひとり背中を丸めて歩く自分の姿が何だか情けなくなる。ラーメンでも食べようと街をうろうろするが青葉もぶぶかもどこもかしこも混んでいて、寒空の下で行列に並ぶのは考えるだけで辟易するので、吉野家に立ち入る。年末に牛丼チェーンに迷い込む哀れな子羊も自分一人であろうと思っていたが、案外に席はいっぱいで、独り身の男たちや家族連れでにぎわっていた。牛丼を食べようと心に決めて入店したはずだったが、牛すき鍋ごぜんが余りにあったかさそうだったので浮気してまった。味付けが異様に甘ったるい。吉野家は全体的に味付けが濃い気がする。しかし牛丼はチェーンの中で一番おいしいはずだ。牛丼チェーンはずっと松屋派なのだが、これは実家や高校の近くにあったのが松屋だったからという理由しかない。松屋の本領は何といっても味噌汁がタダでついてくるという点にあるが、この歳にもなるとあれはただの食塩水にしか感じなくなっている。海外旅行に出かけて暫くすると、ああ松屋の味噌汁でもいいから出汁の利いたものを口にしたい、となりがちだったが。まあそんなことはどうでもよいのだが、寒暖差でくしゃみが止まらない。マスクで全て受け止めるのだが、我ながらきったねえってなる。食べ終わってスマホを見ると13時くらい。アップリンクに戻って、待合スペースのベンチに座る。ずいぶん前に古本屋で買ったままになっていた『ニッポンの海外旅行』という新書を読んでいたのだが、思っていたよりずっと良い出来であった。読書メーターに投稿した感想をそのまま引用する。

我が国における海外旅行の受容のされ方について、文化・経済の両面からその推移を辿る良書。印象的だった点を紹介。①近代以降の日本の観光文化は、江戸時代の「お伊勢参り」から陸続きであるゆえに、大義名分を要する団体旅行が主であった(P41)。② 1960年代以降の海外旅行においては一般的に「歩く」という社会的行為によってその土地の地理や都市構造に自らの認識を合わせていくことに価値が置かれたが(p79)、90年代以降スケルトン・ツアー(短期旅行)が主流になるにつれて7歩く」行為が失われてきている。

上記の感想では漏れているが、「地球の歩き方」の歴史みたいなことも触れられていて面白かった。多少なりとも海外旅行をしてきた人間としては、なんどもお世話になった愛着深い本であるが、その成り立ちみたいなことに思いを馳せたことはなかった。コロナでシリーズの存続も危ぶまれているが、東京版を出したり、いろいろなテーマで「旅の図鑑シリーズ」なるものを刊行していたりして、そのしたたかさには恐れ入る。先日の「アメトーーク!本屋で読書芸人」でカズレーザーが紹介していた(らしい)『世界のすごい巨像』はとってもおすすめです。

さて令和3年の大晦日に話を戻そう。しばらく読書を続けていたが、背もたれのないタイプのベンチであったため、私の体のあちこちが限界に達していた。肩がこる。背中が痛いなどなど。これだったら小銭をケチらずにカフェでも入ってしまった方がよかったなと後悔する。この歳になってもそんなことばかりで、根っからの貧乏性だと思う。直ることはあるのだろうか。肝心の映画『ドライブ・マイ・カー』について。良いと思えるシーンも多かったが(特に高槻と対峙するシーンで三浦透子がミラーをちらっと確認するところ)、理解しきれない部分が多くて消化不良であった。おそらくなのだが、キリスト教的な価値観や倫理観を身に着けておくともう少し理解ができる気がしたので、いくつか解説を漁ってみようと思う。本質から少し外れるが、舞台として使われた瀬戸内の離島でのショットはとても良かった。調べたら呉市の御手洗という地域がロケ地らしい。いつか行ってみたい。

吉祥寺を去って最寄り駅に戻ったのは19時前。年越しそば代わりにラーメンでも食べて帰ろうかと思ったがどこも既にのれんを下ろしていた。そうだよな。セブンイレブンで冷凍食品のマーボーナスを買って帰路につく。しかしまあ、本当に寒い。凍えるほどに。いつかきっとひとり寂しく日の暮れた道を歩いた2021年の大みそかをいつか思い出すこともあるんだろうな、なんて、無理やりにでもこの寂しさに意味があるように思うようにしてみると案外にそれっぽい雰囲気にはなる。家について、シャワーを浴びて、ごはんを食べて、テレビもつけずに、ふったび読書していたら、なぜだか左のひとさしゆびが刃物でぱっくり切られて肉が割けるイメージが頭の中でとめどなく溢れてくる。なにを暗示しているのでもないだろう、この無為に痛いだけのイメージを抱えて、私の2021年は過ぎていった。

*1:特におすすめしたいのは布施明君は薔薇より美しい」である。その他に個人的によく聴いた今年のアルバムは、ミツメ『Ⅵ』haruka nakamura『nujabes PRAY Reflections』安部勇磨『ファンタジア』羊文学『you love』Homecomings『Moving Days』あたりです。楽曲単位では先日記事を出しております。