全部後回しにしちゃいな

イヤフォンを新調した。しばらくiPhone付属の白いやつを使っていたのだが音漏れが酷かった。スピッツを聴いていても爆音イタ車がやってきた時の視線を感じる。サンボマスターを聴きながら満員電車に乗り込んだ日には目も当てられない。そんなこともあって、音漏れを気にせず、かつ音質のしっかりするものをビックカメラで探し回った。イヤフォンを決める際は、必ずミツメ『クラゲ』で視聴することに決めている。初っ端のドラムの鳴りで低音が、ギターのアルペジオで高音の質感を確かめるから。ただ、今回はそれに加えてスピッツ『ロビンソン』『冷たい頬』スーパーカー『Lucky』perfumeワンルーム・ディスコくるり『ハイウェイ』などでも試してじっくり考えた上で決めた。後悔なし。

最近は『ハイウェイ』をずっとリピートしている。本当に好きだ。単純なメロディの繰り返しなのだけれど、それが心地よく響き渡る。気怠く歌うあの頃の岸田繁がまた良い。青春の微睡みたいな感じ。そういえば『ジョゼと魚と虎たち』がアニメ化されるらしい。実写版はラストの選択があまりにリアルだ。感動とかカタルシスとか大袈裟な舞台装置を徹底的に排した無骨加減に衝撃を受けたことは間違いない。それにしてもゼロ年代邦画は、あの不鮮明な明るさが素晴らしいのである。まさに記憶の中の出来事のような映像。ヒリヒリと、痛い。田辺聖子の原作も当然大好きである。冒頭のこの部分を読んだだけで、多幸感と終わりの匂いに身をつまされる。

「わっ。橋だあ」

「わっ。海だ」

ジョゼは嬉しさで息をつまらせながら叫ぶ。

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

 

 

『わたしは光を握っている』気になる映画。舞台が自分の地元であるということもあるのだが、カネコアヤノの主題歌がとても良いではないか。週末の楽しみ。

巨大の力

『まだ結婚できない男』最終回を見終えた。前作ほどの面白おかしさはなくなってしまったが、それでもくだらないやり取りに十分楽しませてもらった。ドラマを全作完走できたのはいつ以来であろうか。阿部寛の動作がいちいち面白い。ただ背中を丸めて歩くだけ、ただランニングマシーンで走るだけのシーンで笑いが起こるからずるい。あの巨軀は空間を歪めてしまうパワーがあるのだ。

デカいものは、遠近法を狂わせて風景を破壊する。たとえば街中にウルトラマンが現れたとして、私たちが覚えるファーストインプレッションは恐らく「なんじゃこりゃ」であると思うのだ。あまりにも街並みと調和していない。ある人はその歪さにまぬけさを覚えるだろうし、ある人は景観破壊だと裁判を起こしかねない。ボランティアで害獣駆除に駆けつけてくれた紳士にあまりにも酷い仕打ちだとは思うが、兎にも角にもデカいものは風景に溶け込まないのである。で、そんな不調和な景色を生み出す巨大存在が実際にこの世に存在したりするのをご存知だろうか。もちろんウルトラマンではない。大仏だ。

以前、ミャンマーの巨大仏については記事を書いているが、この国にも沢山の巨大仏が屹立している。有名なのが奈良や鎌倉の大仏であるが、実はやつら、たったの15mとかしかない大仏界の恥さらしである。日本一の高さを誇る牛久の大仏は台座抜きでも100mを誇るのだ。阿保である。そんな金があるなら貧しい人に寄付しろと思ったりもするが…。その他にも全国には15台の巨大仏、巨大観音像(40m以上が基準)が聳えたっているのをあなたはご存知であろうか?そんなこと知らなくても十分楽しい人生は歩めるのだが、どうでもいい知識こそあなたの血肉となる。『晴れた日は巨大仏を見に』はそんな巨大仏たちを所余すことなく堪能する旅行記であり、文章の緩さというか捻くれ方がとても心地よいので一読を。あなたもこれで大仏マニアの仲間入り。

晴れた日は巨大仏を見に (幻冬舎文庫)

晴れた日は巨大仏を見に (幻冬舎文庫)

 

運動不足が過ぎるのか膝を曲げるたびに変な音が鳴るのだがまずいのでしょうか。実家にいる時はランニングコースが近くにあったためほぼ毎日走っていたら時期もあるのだけれど、引っ越してからはさっぱり。一応駅まで徒歩で20分くらいかかるのでそれを運動と呼んで誤魔化していたけれどそろそろ限界か。しかし、ジムに行くお金もないしどうしたら良いものか。そういえば部屋でシャドー素振りもしている。野球したい。

さて、村田沙耶香『生命式』2ページ目から「中尾さん、美味しいかなあ」「ちょっと固そうじゃない? 細いし、筋肉質だし」という会話文が展開されて度肝。読んでいる人の精神状態によってはこの本を読んで吐くんじゃないかって気色悪さが素晴らしい。この設定で長編小説を書き上げて欲しかったと思ったりしたが、それはそのまま『地球星人』だろうか。

生命式

生命式

 

もうなんか最近は袋小路に迷い込んだかのような精神状態だったりする。理由は特にない。村田沙耶香みたいな本ばっかり読んでいるからかもしれんな。ふとしたきっかけでおジャ魔女どれみが20年前の放送だと知り衝撃を受ける。それは歳を取る筈だ。子供時代に戻れたら何をするかを考えたけど結局同じようなウダツの上がらない人生を歩んでいる気がする。来年から本気出そう。もっと面白い文章を書きたい。

知らない気持ち

朝が光る。特に思い入れのない街が後ろへ過ぎていく。中央線から見える景色がとても好きで、あの家にも誰かが住んでいて自分の知らない生活が営まれているのだと思う得もいえぬ気持ちが胸に去来したりする。それにしても、この捉え難い感情は何だ。物心がついた時からずっと疑問で、というよりは寧ろソレを感じた瞬間から物心が芽生えたような気もする。言葉や理性以前の混沌。集合的無意識の海底で見た記憶なのか、はたまた経験によって獲得する後天的感情なのか。

ソレを感じるのは、たとえば優れたメロディを耳にした時であり、たとえば空に浮かぶ一条の雲を眺めた時であり、たとえば夜の道を歩いている時である。もの寂しさ。言葉にすれば未熟で気付いたら霧散してしまう。ソレを誰かに伝えられたら、完璧な形で伝えられたら、世界が分かるかもしれない。しかし、次の瞬間には何も分からなくなるのだろう。世界は今日も誰かのソレで満たされている。

ちょうど良さ

12/4 〜 12/9

ここ数日は「しもふりチューブ」のオフ企画にすっかりハマっている。本当にたわいもないやり取りが続くだけの動画なのだけれど、せいやの家での二人の寛ぎようであったり、ドライブの合間に交わされる下らない掛け合いであったりに、実家のような安心感を持って聞き続けられる。粗品せいやのふたりのちょうどよい関係性に憧れるし、あんな友人関係があれば人生は楽しいんだろうな。しもふりチューブでいうと、「影響を受けたカルチャーで打線を組んでみた」という回も企画名からして同年代だなと感じられて大好きであり、感化されて一人でiPhoneのメモ帳に自分版を書き留めたりしていたのだが、もちろん日の目を見ることなく今に至る。(iPhoneのメモ帳を他人に見られたら普通憤死しますよね)。だれかとこの企画やってみたいな。

 

いくつか本も読んだ。村田沙耶香『消滅世界』はジェンダーSFというべき作品であるのだが、相変わらず狂気の中に覚めた視点を持ち合わせておりまともが分からなくなる感じが良い。村上春樹川上未映子の退団集『みみずくは黄昏に飛びたつ』は、あの川上未映子が振り回されていて面白かった。しかし、村上春樹の「イデアなんて知らないな」という言葉は本当なのだろうか。このジジイもう呆けてるんじゃないかと思う箇所もあるのだが真相は藪の中。『石黒くんに春は来ない』については別エントリーを参照。

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

 
みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子 訊く/村上春樹 語る (新潮文庫)

みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子 訊く/村上春樹 語る (新潮文庫)

 

武田綾乃『石黒くんに春は来ない』

 

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫)

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫)

 

学生時代を思い返すと怒りが止めどなく噴出してどうにもならない。スクールカーストとかいう現代の階級制度に虐げられた我々第三身分は、ただ装いや振る舞いがちょっと(!?)イケていなかったというただそれだけで、美しき青春を謳歌する権利を不当に簒奪されたのである。俺の青春を返せ。そして、"上"にいる奴らはいつも我々を下に見て薄ら笑いを浮かべてやがるんだ。こんなことは断じて許されない。「万国の労働者よ団結せよ」と声高に宣言して大革命を煽動する者が出てくればと願いしも、下の者は横のつながりも希薄なので大抵はアンシャンレジームが覆されないまま卒業を迎えるのである。

『石黒くんに春は来ない』は、そんな革命を実際に起こそうとする小説である。簡単に言えば、スクールカースト頂点グループに対する不満が様々な事件を経て膨張していく物語なのだけれども、"下"から見た教室世界のあり様があまりにリアリティを伴っているため虚構であることを忘れて手に汗握ってしまう。全体LINEでの発言を許されるのは一定階層以上という暗黙知や、意中の相手が"上"のアイツに気があるとわかると「結局、顔かよ」と言ってしまうメンタリティは、正にあの時の我々が抱えていた恨み辛みの反射である。なによりも自分のお気に入りは「ほら、大人ってさ、いじめられっ子よりいじめっ子のほうが好きだから」という台詞に込められた怨念。結局、周りに気を使ってびくびくしながら過ごした優等生くんのことなんかだれも覚えてないだろうし、問題を起こすヤンキーやゴリゴリの体育会の方が印象に残っていつまでも忘れないのだろう。くたばれごくせん!

話が逸れてしまったので本題に戻そう。前記の通りこの小説のテーマはスクールカーストの転覆にあるのだが、これはしかしとても危険な物語でもある。細かな描写にリアリティが迸るがゆえに正に自分のクラスでの出来事のように認識してしまい、すっかり主人公サイドの正義に没入してしまうのだ。そして革命が進行する中で、本当に"上"を血祭りに上げてやれという気持ちが抑えきれなくなる。そこに正当性があるか否かは殆ど考慮されずに感情だけが論理として働く。つまり、物語の力に流されてしまい、一面の正義でしか物事を判断できなくなる。フランス革命でも共産党革命でも起こった正義の暴走という奴だ。民衆を熱狂させるテーゼは、たとえそれが正しさから出発したものであっても、いずれ得体の知れない怪物となって世界を蹂躙する。故に我々は常に理性の光を絶やしてはならない。それが私たちが歴史から学ぶべき教訓であり、この本が途中で提示する思考の一つの選択肢でもある。

とかなんとか言って偉そうな講釈を垂れてみたが、正義の暴走とかそんなことは本当はどうでもよくて、ただあのくそったれな日々の闇に鉄槌が下れば私はそれでオーライです。あの腐った日々も仕方がなかったのだと納得することはできない。そんなことは、断じて許されない。だから、自己正義の刀を振り回してあいつらをぶちのめす。頭の中でならいいでしょ。現実では革命なんて起こらずに今日もまた虐げられているんだから。本を読んでいる時くらい、自由に妄想させてくれ。ええじゃないか。とにかくこの本を読んで、あの日あの時教室で死んだ自分の仇を取れ。これは弔い合戦だ。

But I’m a creep

Radioheadはあまり詳しくはないのだが、『creep』は世界で七番目くらいに好きな曲。"But I'm a creep"って歌詞はもはや家訓にしたい。美しい世界に入り込みすぎて自分の醜さに気付いてしまう哀れな男の歌。まあ、この歌詞の良さが分からない人間が人生の勝ち組なんだろう。なんと熱がこもりすぎて勢い余って全詞邦訳してしまった。

When You Were Here Before

Couldn’t Look You In The Eye

傍にいても目を見ることすらできなかった

 

You’re Just Like An Angel

Your Skin Makes Me Cry

天使のような君のぬくもりで僕は泣くのさ

 

You Float Like A Feather
In A Beautiful World

君が羽ばたく世界は何よりも美しい


And I Wish I Was Special
You’re So Fuckin’ Special

光になりたいんだ

君が僕を照らすように

 

But I’m A Creep, I’m A Weirdo.

What The Hell Am I Doing Here?

I Don’t Belong Here.

だけど僕は気色の悪い奴さ

なめくじみたいで反吐が出る

なんで生きてるかも分からない

死んだ方がましなのさ

 

I Don’t Care If It Hurts
I Want To Have Control
I Want A Perfect Body
I Want A Perfect Soul

痛みを伴っても構わないから

全てを手に入れたい

心も体も君に捧げる

 

I Want You To Notice
When I’m Not Around

君は僕に気付いている?

たぶん知りもしないのだろう

 

 You’re So Fuckin’ Special
I Wish I Was Special

君が僕の全てであるように

僕も君の全てでありたい

 

But I’m A Creep, I’m A Weirdo.
What The Hell Am I Doing Here?
I Don’t Belong Here.

だけど僕は気色の悪い奴さ

なめくじみたいで反吐が出る

なんで生きてるかも分からない

死んだ方がましなのさ

 

She’s Running Out Again,
She’s Running Out
She’s Run Run Run Run

てのひらから光が溢れる

君の幻から覚めてしまう

行かないで 行かないで 行かないで

 

Whatever Makes You Happy
Whatever You Want

You’re So Fuckin’ Special
I Wish I Was Special

たとえあいつと付き合っても

君が笑ってくれるなら

それで全てが完璧なんだ

 

But I’m A Creep, I’m A Weirdo,
What The Hell Am I Doing Here?
I Don’t Belong Here.
I Don’t Belong Here.

でもさ、僕はとても気色が悪いから

生きる価値もないだろう?

死んでしまった方がましさ

死んでしまった方が…